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具合が悪いのは寒すぎる家のせいだった? 冬は、わずかな温度差でも体に影響する

俳優の平幹二朗さん(82)が亡くなった。浴槽で倒れているところを発見されたが、死因はわからなかったと発表されている。

 

   厚生労働省の「人口動態統計」によると、「家庭内の不慮の事故死」は例年1万3~5000人程度確認されており、事故状況を入浴周辺に限定すると、4~5000人。家での事故死の3分の1は風呂場で起きていることになる。

 

 

 

 

 

浴室は家庭内での事故多発箇所

 

   建築と健康の関係について研究している、近畿大学建築学部長の岩前篤教授は、統計で算出されている以上のリスクがある可能性を指摘する。

 

   「4~5000人という数値は救急車到達時に亡くなられていた人の数で、医療機関へ搬送後に亡くなられた人は含まれていません。搬送後の数値も含めると、入浴関連だけで1万8千人になると指摘する声もあります」

 

   警察庁が毎年発表している交通事故死者数(24時間以内)は、2009年以降4~5000人で推移しており、風呂場での事故死はその3倍以上のリスクがあるといえる。

 

   一般的に入浴時の事故原因といえば、冬場に暖かい居間などから、冷え切った脱衣所や風呂に移動することで心不全や脳血管梗塞を起こす、いわゆる「ヒートショック」が多いと言われている。

 

   しかし、最近では入浴時に脱力してしまい浴槽内で失神する、あるいは浴槽から立ち上がる時に失神するといったリスクがあることもわかってきた。立ち上がるという動作は心臓に大きな負担をかける。しかも、入浴したことで体が温まって血管が拡張しているため、失神しやすい状態を作り出してしまっているのだ。

 

   さらに、2014年に慶應義塾大学が実施した「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」によると、室温が低くなる冬は入浴時の湯温が高くなる傾向にあり、これによって熱中症になっている人が相当数いることも示されている。

 

   寒い時期に、体を温めるはずの場所である風呂場が、実は高いリスクを抱えた事故多発箇所になってしまっているのだ。

 

 

日本の家は寒すぎる!

 

   しかし、根本的な原因は風呂場にあるわけではない。問題は日本の家が寒く、室内で大きな温度差が生じていることだ。岩前教授も、「海外、特に欧米と比べると、日本は明らかに室温が低い」という。

 

 

 

 

 

 

 

 

   そんなことはないと思うかもしれないが、例えば暖房の効いた居間から廊下に出たとき、朝起きて布団から出たときなど、室内で温度差を感じる場面がないだろうか。

 

   冬場の日本の木造住宅の寝室は、エアコン不使用だと10度前後とされるが、布団の中は28~30度前半。布団から出ただけで最大20度も温度差が発生していることになる。

 

   「欧米では『寒さ=悪』なので、秋の終わりから春の始まりまで、暖房をつけっぱなしにしています。これに対し、日本では寒さは我慢の対象になっています。紙と木で作られたかつての日本家屋では、現実的に暖かくすることが不可能であった名残ではないかと考えています」(岩前教授)

 

   温度差だけでなく、単純に寒いことも問題だ。極寒の環境でなくとも、「寒い」と感じるような室温で長時間過ごしていると、末梢血管が収縮して血圧が上昇、筋肉の動きが悪化、排尿回数が増えて脱水が進行、血液循環の阻害、冷たい空気を吸入して気管支の炎症が起こりやすくなるなど、健康に対する悪影響ばかりだ。

 

必要なのは「高断熱化」で外から内を遮断

 

   では、どうすればいいのだろうか。岩前教授が提案するのは「高断熱化」だ。断熱といっても暑さだけを防ぐのではなく、家の中と外を分断し、熱の移動を少なくするという意味で、壁や床、天井などに断熱材を使うのが一般的に知られている。

 

   「高断熱には隙間風対策も必要なので、気密化も重要です。新鮮な空気を必要最低限取り込むためには、換気設備も必須となります。『断熱』『換気』『気密』の3つを組み合わせることが、根本的解決策になると思います」(岩前教授)

 

   実際に、岩前教授が2003~2007年に竣工された700件の住宅を対象とし、断熱性能の違いが健康に与える影響を調査した「住まいの健康度調査」でも、体調不良や健康状態の悪化が、高断熱化住宅に移ったことで解消された可能性を示唆する結果が出ている。

 

   とはいえ、今から家をすぐに高断熱化するというのは難しい話だ。なにか、身近なところから取り組める対策はないだろうか。

 

   岩前教授はあくまで事後の策であり、高断熱化のような根本的な解決にはならないとしつつ、皮膚に負担をかけない程度に厚着をして、暖房機による温度調整に配慮するという方法を挙げる。

 

   「温めればいいというものではなく、急激な温度上昇や極端な温度分布はかえって健康によくありません。健康のために運動や食事のバランスに注意するのと同様に、室温もバランスのよい状態を心がけるという意識が必要でしょう」(岩前教授)

 

【監修:岩前篤 近畿大学建築学部長】

 

 

 

 

引用

本文 http://www.agingstyle.com/2016/11/06001558.html?p=all

 

画像 http://www.agingstyle.com/2016/11/06001558.html?p=all